百年の姑息

本と深夜ラジオと音楽が好きですがその他のものごとも好きです。

最近読んだ本など

最近の情勢に普通に精神がやられている。インターネットとかあんまり見ない方がいいんじゃないか。ガルシア=マルケスコレラの時代の愛』をなんとなくパラパラと読み返した。

母親は息子の状態が恋の病というよりもコレラの症状に似ていたので恐慌をきたした。同種療法を行なっている老人がフロレンティーノ・アリーサの名親になっていたが、トランシト・アリーサは人の囲いものになって以来、何かにつけてその老人に相談を持ちかけていた。老人は病人の症状を見て、びっくりした。まるで重病人のように脈拍が弱く、呼吸は乱れ、冷たい汗をかいていた。診察してみると、熱があるわけでもなければ、どこかが痛むわけでもなかった。ひとつだけはっきりしていたのは早く死にたがっていることだった。本人と母親にあれこれ遠まわしに尋ねていくうちに、恋病の症状がコレラのそれにそっくりだということがわかった。 *1

コレラの時代の愛』は別に文字通りにコレラの話をしているわけではないんですが。

 

コレラの時代の愛

コレラの時代の愛

 

 

 

ハン・ガン『菜食主義者』『ギリシャ語の時間』

 ハン・ガンの小説を少し前にまとめて読んだ。『ギリシャ語の時間』、『すべての、白いものたちの』、『菜食主義者』と読んだ中では『菜食主義者』が一番よかった。

 

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

  • 作者:ハン・ガン
  • 発売日: 2011/06/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

お姉さん、わたしはもう動物じゃないの。
重大な秘密を打ち明けるように、誰もいない病室を見回しながらヨンヘは言った。
ごはんなんて食べなくてもいいの。生きていける。日差しさえあれば。*2

ハン・ガンは、生きているだけで必然的にだれかを/なにかを傷つけてしまうことの苦しさ、虚しさみたいなものを執拗に描いている。自分が動物であるだけでつきまとう苦しみ。

おとなしいが強盛で、父の機嫌をとることができなかったヨンヘは何の抵抗もしなかったが、父の暴力やすべてのことが骨の髄まで身に染みていたのだろう。今になってみれば彼女はわかる。あのとき、長女として行なった自分の従順さは、早熟ではなく卑怯だったことを。*3

 

ギリシャ語の時間』。

それなら私の神は善なるもので、悲しむ神なの。そんなバカみたいな論証に魅力を感じていたら、ある日あなた自身が成立不能だってことになってしまうわよ。*4

自分の言葉がいつも「バカみたいな論証」なのかもしれない。ある日わたし自身が成立不能だってことになってしまいそうだ。

 

ギリシャ語の時間』は『菜食主義者』よりもずっとライトだと思うので、基本的にはこちらの方が人に勧めやすい。というか、『菜食主義者』まで含めて、ハン・ガンの作品は優しい。その優しさが苦しみの原因になることもあるというだけで。

告白するとね……僕がいずれ、どんなものでも本を出すとしたら、ぜひ点字版を作りたいんだ。誰かがそれを指で触りながら一行一行最後まで読んでくれたらうれしい。それって、ほんとうに……なんていうか、実際にその人と接触しているようなものだろ。違うかな?*5

 

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

 

 

 

近藤聡乃『A子さんの恋人』6巻

ようやく『A子さんの恋人』の新刊が出た。ずっと待っていたので大変うれしい。 そして期待通りに面白い。というかこの漫画すばらしいので全員読んだ方がいいです。

 

A子さんの恋人 6巻 (ハルタコミックス)

A子さんの恋人 6巻 (ハルタコミックス)

  • 作者:近藤 聡乃
  • 発売日: 2020/03/14
  • メディア: コミック
 

 

 

蛙亭もういっちょ』


【子宮がドォーン】蛙亭のトリセツ作り&特技披露【蛙亭もういっちょ】

 

蛙亭冠番組が始まったらしい。蛙亭は中野さんの声がすごくいいと思う。高い声で抑揚のない喋り方をするのがなんだかおかしい。

この回で一番笑ったのは「男が男を笑わすときの変顔」。こういう顔をする男はいる。というか多分自分もしていると思う。「顔あるある」ネタとしてすごくクオリティが高い気がする。なんなんだろうこの顔。岩倉さんがツッコミを待っている時間もいい。この3秒、最近見たなかで一番いい3秒だった。

出来上がった似顔絵がそんなに似ていないというかコメントに困る感じなのも結果的によかった。

 

 

その他

最近は分析哲学系の文章を主に読んでいて、特に言語における意図と意味に関心がある。というか最終的には芸術作品の意図と意味、それと道徳的な批評に関心があって、その関連で色々と読んでいる。グライスとデイヴィドソンは、それぞれ一編しか読んでいないけれど、コミュニケーションを基盤に意味を語ろうとする点で好みだった。

一ノ瀬正樹『英米哲学史講義』がいい本だった。かなり幅広く英語圏哲学史を説明してくれる上、タームの解説も丁寧。分析哲学の流れも、倫理学の流れも追いながら進行してゆく良書だと思う。

この本に限らず、分析哲学の文章は人を説得しようという気持ちを感じて読んでいて楽しい。読んでいて楽しい文章を読みたいと思っています。

 

英米哲学史講義 (ちくま学芸文庫)

英米哲学史講義 (ちくま学芸文庫)

 

 

とりあえず、健康に過ごしたいです。皆さんがんばってください。

 

*1:G・ガルシア=マルケスコレラの時代の愛木村榮一訳、新潮社、2006年、pp.96-97.

*2:ハン・ガン『菜食主義者』きむふな訳、CUON、2011年、pp.244-45.

*3:同上、p.251.

*4:ハン・ガン『ギリシャ語の時間』斎藤真理子訳、晶文社、2017年、p.47. 

*5:同上、p.130.